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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)1566号 判決 1949年8月09日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人菊池圭作、同秋山要、同吉江知養の上告趣意書は、末尾に添えた別紙記載の通りであるが、本件は、恐喝の被疑者として逮捕状を発せられ逃走中の関根賢を逮捕からまぬかれさせるため、平島義次、野口啓一郎、荒舘龜吉の三名が順次にかくまった事件であるが、それぞれ別件として起訴され、第一審において平島に対する被告事件に併合されて判決があり、第二審の途中からまた分離され、平島および野口について第二審判決が確定したのである。從って記録が單一でないため多少の混雜があり、それが本件上告の一つの言分になっている。

(一)上告論旨第一点の(一)は、「原判決は適法なる証拠調を経ない証拠を断罪の資料とした違法がある」というのである。すなわち原決は被告人荒舘の犯罪事実を認定する証拠として、平島および野口の各一件記録中にとじこまれた司法警察官の聽取書二通および檢事の訊問調書一通を引用しているが、原審第五回公判調書を見ると裁判長は第二、三回公判調書記載の各調書について証拠調の手続をしたとあり、その第二、三回公判調書には「各聽取書、各訊問調書」とあるのみで、原判決引用の聽取書と訊問調書とがその中に含まれているかどうか明かならず、從って右の書類につき証拠調の手続が適法にされたかどうかも明かでない、というのである。しかし公判廷において証拠調をした書類を公判調書に記載するには、必ずしも書類の一々を個別具体的に掲記する必要はない。ということは当裁判所の判例とするところであって(昭和二二年(れ)二七七号同二三年四月八日第一小法廷判決)本件においても、第二回公判期日に証拠調がされた書類として同公判調書中には被告人荒舘に関する一件記録にとじこまれているすべての聽取書および訊問調書が含まれており、第三回公判調書に同期日に証拠調がされたものとして記載されている書類中には原審原被告人平島および野口に関する一件記録にとじこまれているすべての聽取書および訊問調書が含まれている、と考えることができる。そして第五回公判調書に第二、三回公判調書記載の各書類について証拠調がされた旨記載されているのだから、論旨の指摘する書類について適法に証拠調がされたことは疑いなく論旨は理由がない。

(二)上告論旨第一点の(二)は、原審は第五回公判期日において平島に関する被告事件の記録中にとじこまれた供述調書について証拠調をしたが、平島に関する裁判はその以前に分離されて別事件になっているのだから、その記録中の書類について証拠調をするには、まず右記録の取寄決定をしなければならないのに、原審はその手続を経ずしてその記録中の書類を証拠としたのであって、結局適法な証拠調手続を経ない書類を資料として断罪したことになる、と主張する。しかし、取寄記録が現にその裁判所に存する場合に取寄決定は不要であるということは、大審院時代からの判例であって(大正四年(れ)二一〇一号同一一年二月二一日判決、大正一二年(れ)六〇〇号同年五月一一日判決)、本件においても問題の書類は一連の事件記録として本件記録とともに原審裁判所に現存し、その証拠調につき別段の手続を必要としないものであるから、原審が取寄決定をせずに直ちにその書類につき証拠調をしたことは違法でなく、論旨は理由がない。

(四)上告論旨第三点は、刑法第一〇三條は藏匿の対象者を「罰金以上ノ罪ヲ犯シタル者」と規定しているのであるから、その者が罪を犯したという事実が確定されるまでは犯人藏匿は成立しない、と主張する。なるほどその趣旨の学説もないではないが、刑法第一〇三條は司法に関する国権の作用を妨害する者を処罰しようとするのであるから、「罪ヲ犯シタル者」は犯罪の嫌疑によって捜査中の者をも含むと解釈しなくては、立法の目的を達し得ない。大審院の判例も同趣旨であり(大正一〇年(れ)二九六九号同年一二月一六日判決、大正一一年(れ)二〇四六号同一二年五月八日判決)論旨は採用できない。(その他の判決理由は省略する。)

よって旧刑事訴訟法第四四六條に從い、主文の通り判決する。

以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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